言論NPOの私達にとって重要な活動 - 安部政権の社会保障評価セッション、課題は少子高齢化と財源か
○安部政権実績評価作業参加者

2016年12月14日、言論NPOは安部政権の4年間実績評価作業を行った。
出演者は法政大学経済学部教授の小黒一正氏、東京財団研究員かつ立教大学大学院特任教授の亀井善太郎氏、日本総合研究所上席主任研究員の西沢和彦氏が出席し、司会は言論NPO代表の工藤泰志氏が務めた。


○少子高齢化と社会保障政策

最初のセッションでは、少子高齢化の進む現代日本での社会保障政策について議論を開始。
工藤氏は始めに、政府が取り組む様々なプランが本当に機能しているのか、社会保障制度改善へ向かっているのか、と議論点を投げ掛けた。
西沢氏は少子高齢化社会での社会保障財源が現役世代から高齢世代へ移転しつつあり、現役世代が支えられるように給付を絞り効率化しつつ負担を増やす視点、家族の形と働き方が以前と大幅に変わっており、現代の家族の形、働き方に合わせるように社会保障や税制を改める視点、この両方が必要と主張。

小黒氏は社会保障の予算規模が全体でどの程度膨らんでいるのか、今後の予算増加がどのくらいの速度で膨らんでいくのかの認識を深めることが重要だと語り、亀井氏はそこに社会保障の持続可能性の有無を付け加えた。
続けて、現在の課題と見えてきた課題への対応がなされているかについても触れ、社会保険料がそれについてきていないと指摘した。

人口動態が変化し、少子高齢化が進む一方、社会保障システムや財源の形が見合っておらず、それに対しどう対処し答えを出すのかを国民へ説明すべきと議論が進み、安部政権が当初考えていた財源である消費税増税が延期になったことについて、西沢氏は基礎的財政収支黒字化を目指し歳出と歳入の改革についての議論が2019年まで延期になってしまいロスタイムとなってしまったと語った。
財源のないまま様々な社会保障制度について議論したとしても、やはりズレが生じてきており結局上手くいかないという問題になる。
日本は今近代社会の成れの果てにきており、それでもまだ少し昔のやり方で解決しようとしているところからズレが生じてきている。
これから先、政治家は社会制度の設計を国民にわかる形で提示すべき、と締めくくった。

○持続可能な社会保障について

次のセッションでは年金制度について、工藤氏から持続可能な社会保障の転換を、安倍政権はなぜ取り組もうとしないのか、それとも、している場合どこに問題があるのかとテーマを掲げた。
始めに亀井氏が、すべてを経済成長と繋げてしまっていることを指摘。
少子高齢化社会の中、働き手世代の人口が減っているにも関わらず経済成長を進めようとしても無理が生じ、社会保障と経済成長と切り分けて考える必要があると主張した。
続けて、財源問題に真正面から向き合っておらず、消費税アレルギーがあると語る。格差是正のためには所得税と消費税でバランスをとり、比較的余裕のある高齢者を負担者に含めた税制にしていくことが大事であると語った。

また、西沢氏が現在、官僚の人々が国民に嫌がられるのを覚悟の上で社会保障に関する改革案を提出したとしても、選挙に不利という理由でそれを却下してしまう今の政治主導体制にも問題があると指摘する。
年金問題について、結局のところデフレ社会が続いていく可能性のある中、次世代に負担を先送りしている現状が最大の問題であると指摘する亀井氏。
小黒氏も年金財政の持続可能性が担保されているのは国の一般会計から資金が入っていることであり、何とかギリギリで持たせているのが現状と話し、収支がキチンと合うような形に議論しなければならないのにそれがなされていないと語った。


○医療、介護人材や医療資源の政策について

3つ目のセッションに入ると、医療や介護に関して診療科目別、地域別の偏在を是正するため人材や医療資源の確保、適正配置を図り必要な医療を確保するという公約について議論された。
亀井氏は地域医療構想の50万人単位ではやや不十分ではと不安点を挙げ、患者の掛かっている病気によっても人数や場所は調整し、いくつかは集中させた方が負担が分けられるのではと語る。小黒氏は、診療報酬の点数が高くなるように医師が誘導している場合があり、医療費がその分増加していく深刻な問題があると付け加えた。
西沢氏は子育て支援や医療、介護について国で方針を立てても実行するのが地方であり、うまく伝わっていないという問題を挙げ、うまく機能しているかどうかを見て評価をしなければならないと指摘。
政策目標が妥当であっても、組み合わせで矛盾が生じ、それを上手く解決できていないのではと工藤氏がなげかける。小黒氏は全体像を議論する場が政府の中になく、省庁にまたがった問題に解決策を提示し実行してまとめる司令塔がいないことも大きいと述べた。
最後に工藤氏は、今回社会保障問題の評価を行って、政党や政治家は国民代表者として課題解決を行わなければならず、国民の不安からトランプ氏のような政治家が出現する。だからこそ議論をし、多くの人が自分自身のこと、家族や職場、地域、日本の将来について考えるきっかけとなり、選挙の際に考えることにつながれば、と締めくくった。


○社会保障の行方はどうなるか注目すべき

いずれにせよ、財源という大きな問題が横たわっている中、それを解決しない限りは社会保障の具体的な話をすることは難しい。
様々な政策を掲げて選挙に勤しむより、もっと話し合うべきことは多数あるにも関わらず、議論の場は別の問題でヒートアップしているように思える。
評価作業でも話し合われたとおり、しっかりとした財源確保、そして社会保障の具体的なプランについて提示出来るような議論をしてほしいと考える。