2月3日、HSB鐡砲洲ビルで言論NPOの第1回会員交流会が行われた。
今回のテーマは「リベラルデモクラシーの未来と日本の役割」である。
交流会の前半では、工藤泰志氏の訪米に関する報告が行われた。
工藤氏は今回の訪米の目的を、既存の価値や規範をベースとした議論を世界レベルで展開していくための準備だと説明した。
リベラル・民主主義の未来に関しては、日本国内・国外の両方で活発に議論が行われている。
リベラル・民主主義が国際的な課題に直面している今、日本の役割は何なのだろうか。
工藤氏はまず、アメリカでの有識者との対話を振り返り、多くの専門家やメディアがトランプ大統領の動向に戸惑っていた様子を紹介した。
特に、メディアの信頼はいわゆる「フェイクニュース」によって大きく低下しており、現在その対応に苦心している。
メディアの真価が問われる局面に入っているとの指摘がされた。
また、トランプ政権の経済政策に関して、NY株が2万ドルを突破するなど「トランプ相場」が注目されているとしながら、国内では厳しい見通しが多かったことを紹介。
さらに、就任直後にも関わらず支持率が4割程度まで低下していることを挙げて、早期退任を予想する声も多く聞かれたと振り返る。
その一方で、北東部・中西部の「ラストベルト」と呼ばれる地域の低中所得層にはトランプ大統領の熱烈な支持者が存在しており、これらの人々をカバーしてこなかった点への反省も有識者からは多く聞かれたと述べた。
トランプ政権の外交政策に関しても、様々な意見が挙がっている。
まず、対日外交における安全保障に関しては、北朝鮮への対応が不明ではあるが、日米同盟の重要性は広く認識されているため、大きな変化はないと見られる。
通商面では、トランプ大統領の認識がいまだに日米貿易摩擦の頃から変わっていないこと、周囲が変化を説明しても理解しないことなどから、今後難しい局面を迎える可能性があるとした。
対ロシア外交に関しては様々な疑念や議論が持ち上がっており、ウォーターゲート事件になぞらえて「ロシアゲート」と呼ばれるほど話題になっている。
トランプ大統領がロシアとの関係を修繕しようとする理由には、「白人、キリスト教徒が連携を強め、イスラム教などの宗教・異なる文明との対立に臨むべき」というアメリカ国内での論調が背景にあるのではないかと語った。
その上で、こうした論調に関しての懸念が示された。
中国との外交については、税に関する争いが起こるとの認識が一致したが、アメリカ国内でも意見が分裂している。
同時に、言論NPOによる仲介に期待を寄せる声も多く聞かれた。
工藤氏の報告の後、上智大学特別招聘教授の藤崎氏は、「アメリカに関する3つの主要な言説に対する反論」についてコメントした。
アメリカに関する言説は、以下の3つである。
1.アメリカが内向きになった
2.不確実で先の見通せない時代に入った
3.アメリカが変容することにより、これから世界はこれまで経験したことのない時代に突入する
1つ目に関しては、大統領選においてトランプ大統領の得票数がクリントン候補の得票数を大きく上回っていたこと、下院選挙で9割が再選したことなどを挙げ、アメリカの大勢に変化が起こっているわけではないとした。
2つ目の言説は、トランプ大統領の予測不能な動向によるものだと思われるが、藤崎氏は公約の即時実行や大統領令の連発から、「むしろこれ以上になく分かりやすい」と指摘。
ロシア、中国との外交には制約が多いため、路線の大幅な変更は難しいとの見通しが示された。
最後の言説に関しては、イラク戦争、日系人収容など、アメリカの過ちはこれまでにもあったが、その後修正がなされたことから、トランプ政権下で過ちが起きた場合も、同様に軌道修正がなされるだろうと期待の声を寄せた。
藤崎氏は今後の日本の課題として、想定外の事態にも対処できるように柔軟さを身に付けることを挙げた。
また、今後起こり得る通商摩擦を解消するためには、事実を丁寧に説明し、国の間の誤解を解くこと、無理難題は拒みながらも、可能な限りの協力を行うなどして、良い関係を構築することが必要だと指摘した。
これらのためには、首相や大統領などの個人的なラインだけではなく、閣僚、民間レベルの様々なチャンネルを作ること、様々な人脈を構築することが必要だ。
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